2026年6月30日

「尿の勢いが弱くなった」
「トイレに行ってもすっきりしない」
「夜中に何度もトイレで目が覚める」
「尿が出始めるまでに時間がかかる」
このような症状がある場合、原因のひとつとして前立腺肥大症が考えられます。
前立腺肥大症は、中高年以降の男性に多い病気です。命に関わる悪性疾患ではありませんが、排尿のしづらさや夜間頻尿によって生活の質を下げたり、悪化すると尿がまったく出なくなる「尿閉」につながったりすることがあります。
一方で、排尿症状は前立腺肥大症だけで起こるわけではありません。膀胱の働き、糖尿病、睡眠の問題、薬の影響、尿路感染症、前立腺がんなどが関係している場合もあります。
この記事では、前立腺肥大症の症状、原因、検査、治療、受診の目安についてわかりやすく解説します。
前立腺肥大症とは
前立腺は、男性だけにある臓器で、膀胱の出口付近にあり、尿道を取り囲むように存在しています。
前立腺肥大症とは、加齢などの影響で前立腺が大きくなり、尿道や膀胱の出口が圧迫されることで、尿が出にくくなったり、頻尿や残尿感などの症状が出たりする病気です。
ただし、前立腺が大きいから必ず症状が強い、というわけではありません。前立腺の大きさだけでなく、尿道の圧迫の程度、膀胱の働き、過活動膀胱の合併、生活習慣などが関係します。
つまり、前立腺肥大症は「前立腺が大きいかどうか」だけではなく、実際にどのような排尿症状があり、生活にどれくらい困っているかを含めて評価することが大切です。
前立腺肥大症でよくみられる症状
前立腺肥大症の症状は、大きく分けると以下の3つに分類できます。
1. 尿が出にくい症状
前立腺肥大症で代表的なのが、尿を出すときの症状です。
具体的には、次のような症状があります。
・尿の勢いが弱い
・尿が出始めるまでに時間がかかる
・尿が途中で途切れる
・お腹に力を入れないと尿が出にくい
・排尿に時間がかかる
・尿の切れが悪い
こうした症状は、前立腺が尿道を圧迫し、尿の通り道が狭くなることで起こります。
「年齢のせいだから仕方ない」と思って放置されることもありますが、症状が進むと膀胱に負担がかかり、残尿が増えたり、尿閉を起こしたりすることがあります。
2. トイレが近い・夜中に起きる症状
前立腺肥大症では、尿が出にくい症状だけでなく、頻尿や夜間頻尿がみられることもあります。
具体的には、次のような症状です。
・昼間のトイレの回数が多い
・夜中に何度もトイレで目が覚める
・急に強い尿意を感じる
・トイレまで我慢しづらい
・尿意を感じると急いでトイレに行きたくなる
前立腺肥大症によって膀胱に負担がかかると、膀胱が過敏になり、少量の尿でも尿意を感じやすくなることがあります。
また、夜間頻尿は前立腺肥大症だけでなく、睡眠の質、夕方以降の水分摂取、アルコール、心臓・腎臓の病気、糖尿病、睡眠時無呼吸症候群などが関係することもあります。
そのため、夜間頻尿がある場合も、単純に「前立腺だけの問題」と決めつけず、原因を整理することが重要です。
3. 残尿感・排尿後の不快感
前立腺肥大症では、排尿後にも不快な症状が残ることがあります。
・尿をした後もすっきりしない
・まだ尿が残っている感じがする
・排尿後に下着に尿が少し漏れる
・何度もトイレに行きたくなる
これらは、実際に膀胱内に尿が残っている場合もあれば、残尿が多くなくても「残っている感じ」が強く出る場合もあります。
残尿が多い状態が続くと、尿路感染症や膀胱結石、腎機能低下につながることがあるため、症状が続く場合は検査で確認することが大切です。
前立腺肥大症を疑うセルフチェック
次の項目に当てはまる場合は、前立腺肥大症やその他の排尿トラブルが隠れている可能性があります。
・尿の勢いが以前より弱くなった
・尿が出るまでに時間がかかる
・排尿に時間がかかる
・夜中に2回以上トイレに起きる
・トイレに行ってもすっきりしない
・急に尿意を感じて我慢しづらい
・尿が途中で途切れる
・下腹部が張る感じがある
・尿が出にくい日が増えている
・市販薬や風邪薬を飲んだ後に尿が出にくくなったことがある
1つでも気になる症状が続く場合は、早めに泌尿器科で相談すると安心です。
特に、症状が数か月以上続いている場合や、日常生活・睡眠に支障が出ている場合は、検査を受けることで原因に合った治療を選びやすくなります。
前立腺肥大症の原因
前立腺肥大症のはっきりした原因は、まだ完全には解明されていません。ただし、加齢と男性ホルモンの影響が大きく関係していると考えられています。
前立腺は年齢とともに大きくなりやすく、特に50歳以降で排尿症状を自覚する方が増えてきます。
また、次のような要因が症状に関係することがあります。
・加齢
・前立腺の大きさ
・膀胱の過敏さ
・生活習慣
・飲酒
・便秘
・運動不足
・糖尿病
・一部の薬剤
・夜間の水分摂取
・睡眠の質
前立腺肥大症は、単に前立腺が大きいだけでなく、膀胱や全身状態も含めて症状が出ることがあります。そのため、診察では症状の内容や生活背景を確認しながら、原因を見極めていきます。
前立腺肥大症を放置するとどうなる?
前立腺肥大症は、軽症であれば生活習慣の見直しや経過観察でよい場合もあります。
しかし、症状が強いまま放置すると、次のような問題につながることがあります。
尿閉
尿閉とは、膀胱に尿がたまっているのに、尿がまったく出せなくなる状態です。
急性尿閉では、下腹部が強く張り、痛みを伴うことがあります。尿閉は自力で改善しにくく、緊急で尿を出す処置が必要になることがあります。
特に、前立腺肥大症がある方では、飲酒、便秘、長時間の我慢、風邪薬、抗アレルギー薬、一部の睡眠薬などをきっかけに尿が出にくくなることがあります。
尿路感染症
膀胱に尿が残りやすくなると、細菌が増えやすくなり、膀胱炎や腎盂腎炎などの尿路感染症を起こすことがあります。
発熱、排尿痛、尿の濁り、血尿、背中の痛みなどを伴う場合は、早めの受診が必要です。
膀胱結石
残尿が多い状態が続くと、膀胱の中に結石ができることがあります。
膀胱結石では、排尿痛、血尿、尿が途中で止まる、頻尿などがみられることがあります。
腎機能の低下
前立腺肥大症が進行し、尿の流れが悪い状態が続くと、膀胱から腎臓側へ負担がかかり、腎機能に影響することがあります。
すべての方で起こるわけではありませんが、残尿が多い方、尿閉を繰り返す方、腎機能低下を指摘されている方は注意が必要です。
前立腺がんとの違い
前立腺肥大症は良性の病気であり、前立腺がんとは別の病気です。
ただし、前立腺肥大症と前立腺がんは、どちらも中高年以降の男性に多くみられます。また、排尿症状だけでは両者を完全に区別することはできません。
前立腺がんは初期には症状が出にくいことも多く、排尿症状があるからといって前立腺がんとは限りませんが、必要に応じてPSA検査などで確認することがあります。
特に、健康診断などでPSA高値を指摘された方、血尿がある方、急に症状が悪化した方、体重減少や骨の痛みなどがある方は、前立腺肥大症だけでなく他の病気も含めた確認が必要です。
前立腺肥大症の検査
前立腺肥大症が疑われる場合、症状や状態に応じて次のような検査を行います。
問診
まず、どのような排尿症状があるかを確認します。
・いつから症状があるか
・尿の勢いはどうか
・夜間に何回トイレに起きるか
・残尿感があるか
・尿意を我慢できるか
・血尿や排尿痛があるか
・生活にどの程度困っているか
・服用中の薬があるか
・糖尿病や脳・脊椎の病気があるか
前立腺肥大症の診療では、症状の強さだけでなく、患者さん自身がどれくらい困っているかも重要です。
尿検査
尿検査では、血尿、尿路感染、尿糖、蛋白尿などを確認します。
排尿症状があっても、原因が前立腺肥大症ではなく、膀胱炎、尿路結石、膀胱がん、糖尿病などの場合もあります。
そのため、尿検査は排尿トラブルの原因を確認するうえで基本となる検査です。
残尿測定
残尿測定では、排尿後に膀胱の中にどれくらい尿が残っているかを確認します。
通常は超音波検査で測定でき、痛みはありません。
残尿が多い場合は、尿の通り道が狭くなっている、膀胱の収縮力が弱っている、神経の影響がある、などの可能性を考えます。
超音波検査
超音波検査では、前立腺の大きさ、膀胱の状態、残尿量、腎臓への影響などを確認します。
前立腺の大きさは治療方針を考えるうえで参考になります。前立腺が大きい場合には、前立腺を小さくする薬を検討することもあります。
また、膀胱結石や腎臓の腫れがないかを確認することもあります。
尿流測定
尿流測定は、実際に尿を出していただき、尿の勢い、尿量、排尿にかかる時間などを測定する検査です。
「尿の勢いが弱い」という自覚症状を、数値として確認することができます。
前立腺肥大症の重症度や治療効果を判断するうえで役立つ検査です。
PSA検査
PSAは前立腺に関連する血液検査です。
前立腺肥大症でもPSAが上がることがありますが、前立腺がんなどでも上昇することがあります。
PSA検査は、年齢、前立腺の大きさ、過去の数値、炎症の有無などを踏まえて総合的に判断します。
前立腺肥大症の治療
前立腺肥大症の治療は、症状の程度、前立腺の大きさ、残尿の量、合併症の有無、生活への影響をもとに選択します。
主な治療は次の3つです。
1.生活習慣の見直し
2.薬物療法
3.手術療法
生活習慣の見直し
症状が軽い場合や、薬物治療と並行する場合には、生活習慣の見直しが役立つことがあります。
具体的には、次のような工夫があります。
・夕方以降の水分摂取を控えめにする
・アルコールを控える
・カフェインを控える
・便秘を予防する
・長時間尿を我慢しすぎない
・体を冷やさない
・寝る前の大量の水分摂取を避ける
・利尿作用のある飲み物の摂取タイミングを見直す
ただし、水分制限をしすぎると脱水や尿路感染、便秘につながることがあります。特に高齢の方や腎臓・心臓の病気がある方は、自己判断で極端な水分制限をしないようにしましょう。
薬物療法
前立腺肥大症では、症状や前立腺の大きさに応じて薬を使います。
代表的な薬には、次のようなものがあります。
α1遮断薬
α1遮断薬は、前立腺や尿道の緊張をゆるめ、尿を出しやすくする薬です。
比較的早く効果を感じやすいことがあり、前立腺肥大症の薬物治療でよく使われます。
副作用として、立ちくらみ、めまい、射精障害などがみられることがあります。高齢の方や血圧の薬を飲んでいる方では、ふらつきに注意が必要です。
PDE5阻害薬
PDE5阻害薬は、前立腺や膀胱周囲の血流や筋肉の緊張に関わり、排尿症状の改善を目的に使われることがあります。
前立腺肥大症に伴う排尿症状に対して使用される薬で、患者さんの状態や併用薬を確認したうえで処方を検討します。
硝酸薬など、一緒に使ってはいけない薬があるため、服用中の薬を必ず医師に伝えることが大切です。
5α還元酵素阻害薬
5α還元酵素阻害薬は、前立腺を小さくする方向に働く薬です。
特に前立腺が大きい方で検討されることがあります。
効果が出るまでに時間がかかることがありますが、前立腺の大きさや尿閉リスクを考慮して使用されます。
副作用として、性機能への影響、乳房の違和感などがみられることがあります。また、PSA値に影響するため、PSA検査を受ける際には服用中であることを伝える必要があります。
抗コリン薬・β3作動薬
前立腺肥大症に過活動膀胱の症状が合併している場合、つまり「急に尿意がくる」「我慢しづらい」「頻尿が強い」といった症状が目立つ場合には、膀胱の過敏さを抑える薬を併用することがあります。
ただし、残尿が多い方では尿が出にくくなることがあるため、残尿量などを確認しながら慎重に使用します。
漢方薬・サプリメントについて
排尿症状に対して、漢方薬やサプリメントに関心を持つ方もいます。
ただし、前立腺肥大症による閉塞が強い場合や、残尿が多い場合、尿閉のリスクがある場合には、サプリメントだけで様子を見るのは危険なことがあります。
症状が続く場合は、自己判断で済ませず、まずは原因を確認することが大切です。
手術療法
薬で十分な改善が得られない場合や、尿閉を繰り返す場合、残尿が多い場合、膀胱結石や腎機能への影響がある場合などでは、手術療法を検討することがあります。
手術には、尿道から内視鏡を入れて前立腺の内側を削る方法や、レーザーを使う方法など、さまざまな選択肢があります。
近年は、前立腺肥大症に対する低侵襲治療も広がってきていますが、すべての方に適しているわけではありません。前立腺の大きさ、形、症状、年齢、合併症、希望する治療内容などを踏まえて選択します。
前立腺肥大症で早めに受診した方がよい症状
次のような症状がある場合は、早めに泌尿器科を受診しましょう。
・尿が出にくい状態が続いている
・尿の勢いが明らかに弱くなった
・夜間頻尿で睡眠に支障がある
・残尿感が強い
・尿が出るまでに時間がかかる
・頻尿や尿意切迫感がつらい
・血尿がある
・排尿時に痛みがある
・発熱を伴う
・下腹部が張って苦しい
・尿がほとんど出ない
・健診でPSA高値を指摘された
・腎機能低下を指摘された
特に、尿がまったく出ない、下腹部が強く張って痛いという場合は、尿閉の可能性があります。これは緊急性があるため、早めに医療機関を受診してください。
受診するときに伝えるとよいこと
診察の際には、次のような情報を伝えると、診断や治療方針の判断に役立ちます。
・いつから症状があるか
・一番困っている症状は何か
・夜間に何回トイレに起きるか
・尿の勢いは以前と比べてどうか
・尿が出始めるまでに時間がかかるか
・残尿感があるか
・血尿や排尿痛があるか
・服用中の薬
・健診でのPSA値
・糖尿病、脳梗塞、脊椎疾患などの既往
・これまでに尿閉を起こしたことがあるか
特に、風邪薬、抗アレルギー薬、睡眠薬、精神科の薬などは排尿に影響することがあります。お薬手帳がある場合は持参しましょう。
前立腺肥大症は「年齢のせい」と我慢しすぎないことが大切です
前立腺肥大症は、中高年以降の男性に多い病気です。
症状が軽い場合には、生活習慣の見直しや経過観察でよいこともあります。しかし、尿の勢いが弱い、夜中に何度も起きる、残尿感がある、尿が出にくいといった症状が続く場合は、生活の質を下げるだけでなく、尿閉や感染症などにつながることがあります。
また、排尿症状の原因は前立腺肥大症だけとは限りません。膀胱の病気、尿路感染症、糖尿病、薬の影響、前立腺がんなどが関係している場合もあります。
「年齢のせいだから仕方ない」と我慢せず、気になる症状があれば泌尿器科で相談しましょう。
早めに原因を確認することで、生活習慣の見直し、薬物療法、必要に応じた専門的治療など、症状に合った対応を選びやすくなります。
よくある質問
前立腺肥大症は自然に治りますか?
前立腺肥大症は加齢とともに起こりやすい病気で、自然に完全に治ることは多くありません。ただし、症状が軽い場合は生活習慣の見直しで改善することがあります。症状が続く場合や生活に支障がある場合は、薬物療法などを検討します。
夜間頻尿は前立腺肥大症が原因ですか?
夜間頻尿の原因のひとつに前立腺肥大症があります。ただし、睡眠の質、夕方以降の水分摂取、アルコール、糖尿病、心臓や腎臓の病気、睡眠時無呼吸症候群などが関係することもあります。夜間頻尿が続く場合は、原因を確認することが大切です。
前立腺肥大症と前立腺がんは関係ありますか?
前立腺肥大症は良性の病気で、前立腺がんとは別の病気です。ただし、どちらも中高年以降の男性に多く、症状だけでは区別できないことがあります。必要に応じてPSA検査などで確認します。
前立腺肥大症の薬はずっと飲み続ける必要がありますか?
症状や前立腺の大きさ、残尿量、治療効果によって異なります。薬で症状が安定している場合は継続することが多いですが、状態によっては薬の調整や変更を行うこともあります。自己判断で中止せず、医師と相談しながら治療を続けることが大切です。
尿が出にくいとき、市販薬で様子を見てもよいですか?
軽い症状であれば一時的に様子を見ることもありますが、尿が出にくい状態が続く場合や、残尿感が強い場合、夜間頻尿で困っている場合は受診をおすすめします。特に、尿がほとんど出ない、下腹部が張って痛い場合は尿閉の可能性があり、早めの対応が必要です。
まとめ
前立腺肥大症は、中高年以降の男性に多い排尿トラブルの原因です。
主な症状には、尿の勢いが弱い、尿が出にくい、排尿に時間がかかる、残尿感がある、夜間頻尿がある、トイレが近いなどがあります。
軽症であれば生活習慣の見直しで改善することもありますが、症状が続く場合や生活に支障がある場合は、検査によって原因を確認することが大切です。
前立腺肥大症は、適切に評価し、状態に合った治療を行うことで症状の改善が期待できます。
「年齢のせい」と我慢しすぎず、尿の出にくさや夜間頻尿、残尿感が気になる方は、早めに泌尿器科で相談しましょう。